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2017年10月30日(月)

原文に忠実とは(日中特許翻訳の場合)

はじめましてこんにちは。

一般・技術翻訳を経て、現在主に日中特許翻訳をしているSです。今日から、自分が翻訳や言語について日々思うことを綴っていきたいと思います。

まず、日中翻訳業界全体の現状として、日本語の漢字、文の態、構文までそのまま中国語に持ってくるという、極端なまで「忠実」を重視する風潮があります。

どういうことかというと、例えば、「真円」という言葉があって、それをそのまま「真圆」に訳された(というか、簡体字に直されただけ)訳文が実際にあります。完璧に「忠実」しているように見えますが、中国語ネイティブとしては、「真圆」からだと、「本物の円」あるいは「実に丸い」の2パターンのイメージしか湧きません。「真円」を本当に意味する中国語は、「正圆」です。

また、たとえば「紙幣の存在を検知するセンサ」のような表現が明細書によく出てきます。
そのまま中国語に訳すと、「存在するかどうか分からないという不確定な事実を確定させるためのセンサが、紙幣が存在しているという確定事実を検知する」と矛盾している文になってしまいます。字面通りではなく、「紙幣の有無を検知するセンサ」として訳出すれば正しく伝わりますが、多くの翻訳者は字面通りに翻訳しています。

この風潮は、日中両言語の特徴に対する理解不足以外に、一般的に、お客様は中国語が分からないため、逆翻訳などで訳文をチェックすることとも大きく関係していると思います。逆翻訳では、もちろん中国語としての良し悪しはチェック対象にならず、一字一句が原文に「忠実」しているかのみがチェックされるから、原文に一番翻訳されやすい中国語、極端な話、日本語のような中国語が望まれているわけです。

「正圆」は用語範疇の話だから比較的に理解されやすいのですが、「有無」の場合、原文にないのに「有無」と訳すのは不忠実だと指摘される可能性があります。だからこそ、多くの翻訳者は字面通りの訳を選んでいるのでしょう。

しかし、漢字を使う点で共通しているとはいえ、中国語は語順一つでも日本語と大きく異なる別言語です。構造や見た目で原文を再現できても、原文の意味を忠実に伝えられないようでは、これこそ本末転倒な気がしてなりません。

実際に日英翻訳の場合、直訳しすぎず英語ネイティブが分かりやすいように自然な英語表現を意識することが既に一般的になっているようです。中国語は英語ほどお客様が分からないというハンデがある以上、現状を打破するために、やはり翻訳者の一人一人から許される範囲で少しずつこういう意識をもって翻訳していく必要があります。そうすれば、いつか日中翻訳業界でもこれが常識となり、訳文品質の飛躍的な向上も期待できるに違いありません。


カテゴリー:日中特許翻訳

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