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2018.04.18

日中翻訳での用語の調べ方

日中特許翻訳

今回は、意外と知られていないかも知れない日中翻訳における用語の調べ方を紹介します。
調べ方は人それぞれなので、あくまでも自己流なものと考えていただければと思います。

用語調べといえば、真っ先に辞書を思い浮かべる人が多いかもしれません。
現状としては、日中辞書は日英辞書や英中辞書と比べると数が遙かに少ないので、基本的に日本語⇒英訳⇒中訳という流れで用語を調べます。また、日中辞書だけでなく英中辞書に関しても言えることですが、そもそも辞書に載っていなかったり、同じものに対して違う言い方が載っていったり、辞書に載っている訳語をインターネットで検索したらマイナーな言い方だったり、訳語がいくつか羅列されているだけでどれが該当分野に適した言い方が分からなかったりすることがよくあります。そのため、私は辞書だけを当てにせず、ヒントを得る手段の一つとして考えています。
当然ヒント1つでは訳語が特定できないので、インターネットも利用します。

例えば、「ストラットサスペンション」という用語について、辞書からは「撑杆式悬架」という訳語を入手できましたが、本当に合っているかまたは一般的に使われているか分かりませんので、中国の検索エンジンBaiduで完全一致検索を行います。

baidu_search.png

ヒット数が僅か665個で、ヒット内容を見ても自動翻訳サイトや日本特許の中訳などばかりでネイティブ発の技術文献が見当たらないため、中国で一般的な言い方ではなさそうです。

ここは一旦Google JPに戻って「ストラットサスペンション」と検索すると、

stratsus.png

MacPherson Strut」というヒントを得たので、再度Baiduで検索します。

検索結果にそれらしき訳語はありませんが、「MacPherson」の中訳は恐らく「麦弗逊」と分かりました。さらに「MacPherson Strut」と「麦弗逊」を組み合わせて検索したら、ネイテイブ発の技術文献などがちらほら出てくるようになりました。
読んでいくと、大体「麦弗逊悬架」あたりかと推測がついたところで、「麦弗逊悬架」でさらに検索して、ヒット内容を数ページから数十ページ見て、最終的な判断をします。

上記の例は割りと簡単なほうで、日本語⇒英訳⇒中訳では行き詰まるケースも珍しくありません。
例えば、自動変速機分野の「ランププレート」という用語(台湾語訳の例ですが、やり方は基本同じです)。

まず英訳が見つかりません。和製英語のためか、仮に「ramp plate」で検索してもコレジャナイ感しかしません。Google JPから定義も見つかりませんが、ヒット内容からは「エンジンの回転をプーリーに伝えるもの」という情報が得られ、画像検索からは見た目が分かりました。

rampplate.png

次はGoogle TWでいろいろ調べます。
ランププレート」はプーリーやCVTと関連がありますので、それらの単語を組み合わせて調べたり、「プーリー 構造」などで調べたりしていくうちに、なかなか情報がない中、このサイトhttp://www.ridersquare.com/mag/j_costa.htmに辿り着けました。

cvt.png

サイト内の上記画像を見て、対応する台湾語は「壓板」(赤い丸で囲んだところ)である可能性が著しく高いと考えられます。しかし、本当に台湾で一般に通じる言い方なのかまだ分かりませんので、最後に、Google TWで「壓板 CVT」などで検索してヒット内容を確認し、且つ画像検索することで、

cvt_ingoogle.png

ランププレート」の台湾語は「壓板」で問題ないと判断できました。

このように、用語の調べ方はケースバイケースです。
上記以外にも、自動翻訳の訳語を参照したり、特許の場合は同じ出願の中国語公報を参照したり、JIS規格やGB規格を参照したり、該当分野の専門書を読んだりするなど様々なところからヒントが得られます。どれか一つに頼らず、複数の情報源からのヒントを元に総合的に判断することが正解に近づく一番の方法だと思います。

2017.12.08

日中翻訳の意外な落とし穴

日中特許翻訳

前回から少し時間が空きましたが、今回は日中翻訳に潜む落とし穴について書きます。

明細書を翻訳するとき、日本語の本来の意味からかけ離れた使い方をされている用語をよく見ます。

例えば、「一致」という言葉。
広辞苑によると、
1.二つ以上のものがくいちがいなく一つになること。合一。(意見が~する。言行~。~点。)
2.心を同じくすること。合同すうこと。(一致団結)
3.一般普通の常識。
ですが、実際に上記の解釈では説明がつかないようなケースも多いです。

例えば、
① 部材Aの軸心と部材Bの中心軸が一致する。
これはまだ二つのものが一つになると解釈できるもので、「重なる」意味です。

② 長方形A、Bが上下に(短辺方向)並ぶように配置されており、Aの右側の短辺とBの左側の短辺が一致している。
どう考えても二つの短辺が一つになることはなさそうですが、図面で確認すると、AがBの左側に位置し、Aの右側の短辺とBの左側の短辺が上下に揃えていることでした。

③ 長方形A、Bが上下に(短辺方向)並ぶように配置されており、Aの右側の短辺とBの右側の短辺が一致している。
②とほぼ同じ文章ですが、図面で確認すると、AとBがいわゆる右揃えになっていました。

④○○形状の稜線が、××の軸心に一致する
担当技術者に確認したら、稜線と軸心は交点があるということでした。目から鱗です・・・

本来の意味と違う使い方をされると翻訳するときに困るのは当然ですが、さらに困るのが「一致」という言葉は中国語にもあることです。

新華字典(中国で最も権威のある字典)によると、
icchi.png
※①分岐がないこと。(意見が~する。歩調が~する。)②一緒に。一斉に。(~して外敵に立ち向かう。)
となっていて、日本語の「一致」の本来の意味に極めて近いです。

日本語が本来の意味に沿った使い方であれば、中国語にそのまま持ってきても通じるでしょう。問題なのは例のような独自の解釈の場合です。
同じ日本語を母語とする技術者同士なら、言葉は何であれ、阿吽の呼吸で意思疎通できる節がありますが、それを「忠実に」中国語に訳されると、中国語を母語とする技術者にとって、本来万国共通の技術内容でも、その独特な言葉チョイスで疑問が生じたりする可能性が高いです。
日英翻訳の場合、漢字をそのまま英語に持ってくることができないので、日本語の意味を考えてから訳語を選ばなれけばなりません。一方、日中翻訳の場合、漢字をそのまま中国語に持ってくることができるから、意味を考えなくても訳文が作れるわけです。その点で考えると、日中翻訳のほうが実は落とし穴が多いのです。
そのため、日中翻訳の際に、言葉の見た目に惑わされず、常に本当は何を言いたいかを念頭に置いて、それを的確に表現できるような言葉選びをすることが非常に大事だと思います。

s

2017.10.30

原文に忠実とは(日中特許翻訳の場合)

日中特許翻訳

はじめましてこんにちは。

一般・技術翻訳を経て、現在主に日中特許翻訳をしているSです。今日から、自分が翻訳や言語について日々思うことを綴っていきたいと思います。

まず、日中翻訳業界全体の現状として、日本語の漢字、文の態、構文までそのまま中国語に持ってくるという、極端なまで「忠実」を重視する風潮があります。

どういうことかというと、例えば、「真円」という言葉があって、それをそのまま「真圆」に訳された(というか、簡体字に直されただけ)訳文が実際にあります。完璧に「忠実」しているように見えますが、中国語ネイティブとしては、「真圆」からだと、「本物の円」あるいは「実に丸い」の2パターンのイメージしか湧きません。「真円」を本当に意味する中国語は、「正圆」です。

また、たとえば「紙幣の存在を検知するセンサ」のような表現が明細書によく出てきます。
そのまま中国語に訳すと、「存在するかどうか分からないという不確定な事実を確定させるためのセンサが、紙幣が存在しているという確定事実を検知する」と矛盾している文になってしまいます。字面通りではなく、「紙幣の有無を検知するセンサ」として訳出すれば正しく伝わりますが、多くの翻訳者は字面通りに翻訳しています。

この風潮は、日中両言語の特徴に対する理解不足以外に、一般的に、お客様は中国語が分からないため、逆翻訳などで訳文をチェックすることとも大きく関係していると思います。逆翻訳では、もちろん中国語としての良し悪しはチェック対象にならず、一字一句が原文に「忠実」しているかのみがチェックされるから、原文に一番翻訳されやすい中国語、極端な話、日本語のような中国語が望まれているわけです。

「正圆」は用語範疇の話だから比較的に理解されやすいのですが、「有無」の場合、原文にないのに「有無」と訳すのは不忠実だと指摘される可能性があります。だからこそ、多くの翻訳者は字面通りの訳を選んでいるのでしょう。

しかし、漢字を使う点で共通しているとはいえ、中国語は語順一つでも日本語と大きく異なる別言語です。構造や見た目で原文を再現できても、原文の意味を忠実に伝えられないようでは、これこそ本末転倒な気がしてなりません。

実際に日英翻訳の場合、直訳しすぎず英語ネイティブが分かりやすいように自然な英語表現を意識することが既に一般的になっているようです。中国語は英語ほどお客様が分からないというハンデがある以上、現状を打破するために、やはり翻訳者の一人一人から許される範囲で少しずつこういう意識をもって翻訳していく必要があります。そうすれば、いつか日中翻訳業界でもこれが常識となり、訳文品質の飛躍的な向上も期待できるに違いありません。