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2017年12月08日(金)

日中翻訳の意外な落とし穴

前回から少し時間が空きましたが、今回は日中翻訳に潜む落とし穴について書きます。

明細書を翻訳するとき、日本語の本来の意味からかけ離れた使い方をされている用語をよく見ます。

例えば、「一致」という言葉。
広辞苑によると、
1.二つ以上のものがくいちがいなく一つになること。合一。(意見が~する。言行~。~点。)
2.心を同じくすること。合同すうこと。(一致団結)
3.一般普通の常識。
ですが、実際に上記の解釈では説明がつかないようなケースも多いです。

例えば、
① 部材Aの軸心と部材Bの中心軸が一致する。
これはまだ二つのものが一つになると解釈できるもので、「重なる」意味です。

② 長方形A、Bが上下に(短辺方向)並ぶように配置されており、Aの右側の短辺とBの左側の短辺が一致している。
どう考えても二つの短辺が一つになることはなさそうですが、図面で確認すると、AがBの左側に位置し、Aの右側の短辺とBの左側の短辺が上下に揃えていることでした。

③ 長方形A、Bが上下に(短辺方向)並ぶように配置されており、Aの右側の短辺とBの右側の短辺が一致している。
②とほぼ同じ文章ですが、図面で確認すると、AとBがいわゆる右揃えになっていました。

④○○形状の稜線が、××の軸心に一致する
担当技術者に確認したら、稜線と軸心は交点があるということでした。目から鱗です・・・

本来の意味と違う使い方をされると翻訳するときに困るのは当然ですが、さらに困るのが「一致」という言葉は中国語にもあることです。

新華字典(中国で最も権威のある字典)によると、
icchi.png
※①分岐がないこと。(意見が~する。歩調が~する。)②一緒に。一斉に。(~して外敵に立ち向かう。)
となっていて、日本語の「一致」の本来の意味に極めて近いです。

日本語が本来の意味に沿った使い方であれば、中国語にそのまま持ってきても通じるでしょう。問題なのは例のような独自の解釈の場合です。
同じ日本語を母語とする技術者同士なら、言葉は何であれ、阿吽の呼吸で意思疎通できる節がありますが、それを「忠実に」中国語に訳されると、中国語を母語とする技術者にとって、本来万国共通の技術内容でも、その独特な言葉チョイスで疑問が生じたりする可能性が高いです。
日英翻訳の場合、漢字をそのまま英語に持ってくることができないので、日本語の意味を考えてから訳語を選ばなれけばなりません。一方、日中翻訳の場合、漢字をそのまま中国語に持ってくることができるから、意味を考えなくても訳文が作れるわけです。その点で考えると、日中翻訳のほうが実は落とし穴が多いのです。
そのため、日中翻訳の際に、言葉の見た目に惑わされず、常に本当は何を言いたいかを念頭に置いて、それを的確に表現できるような言葉選びをすることが非常に大事だと思います。

s


カテゴリー:日中特許翻訳

2017年10月30日(月)

原文に忠実とは(日中特許翻訳の場合)

はじめましてこんにちは。

一般・技術翻訳を経て、現在主に日中特許翻訳をしているSです。今日から、自分が翻訳や言語について日々思うことを綴っていきたいと思います。

まず、日中翻訳業界全体の現状として、日本語の漢字、文の態、構文までそのまま中国語に持ってくるという、極端なまで「忠実」を重視する風潮があります。

どういうことかというと、例えば、「真円」という言葉があって、それをそのまま「真圆」に訳された(というか、簡体字に直されただけ)訳文が実際にあります。完璧に「忠実」しているように見えますが、中国語ネイティブとしては、「真圆」からだと、「本物の円」あるいは「実に丸い」の2パターンのイメージしか湧きません。「真円」を本当に意味する中国語は、「正圆」です。

また、たとえば「紙幣の存在を検知するセンサ」のような表現が明細書によく出てきます。
そのまま中国語に訳すと、「存在するかどうか分からないという不確定な事実を確定させるためのセンサが、紙幣が存在しているという確定事実を検知する」と矛盾している文になってしまいます。字面通りではなく、「紙幣の有無を検知するセンサ」として訳出すれば正しく伝わりますが、多くの翻訳者は字面通りに翻訳しています。

この風潮は、日中両言語の特徴に対する理解不足以外に、一般的に、お客様は中国語が分からないため、逆翻訳などで訳文をチェックすることとも大きく関係していると思います。逆翻訳では、もちろん中国語としての良し悪しはチェック対象にならず、一字一句が原文に「忠実」しているかのみがチェックされるから、原文に一番翻訳されやすい中国語、極端な話、日本語のような中国語が望まれているわけです。

「正圆」は用語範疇の話だから比較的に理解されやすいのですが、「有無」の場合、原文にないのに「有無」と訳すのは不忠実だと指摘される可能性があります。だからこそ、多くの翻訳者は字面通りの訳を選んでいるのでしょう。

しかし、漢字を使う点で共通しているとはいえ、中国語は語順一つでも日本語と大きく異なる別言語です。構造や見た目で原文を再現できても、原文の意味を忠実に伝えられないようでは、これこそ本末転倒な気がしてなりません。

実際に日英翻訳の場合、直訳しすぎず英語ネイティブが分かりやすいように自然な英語表現を意識することが既に一般的になっているようです。中国語は英語ほどお客様が分からないというハンデがある以上、現状を打破するために、やはり翻訳者の一人一人から許される範囲で少しずつこういう意識をもって翻訳していく必要があります。そうすれば、いつか日中翻訳業界でもこれが常識となり、訳文品質の飛躍的な向上も期待できるに違いありません。


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