最近気になっていることのひとつが、
おそれ があります」という表現です。
 
なにげない普段の生活のなかにも、
  • 火災のおそれがあります
  • 漏洩するおそれがあります
  • 凍結するおそれがあります
  • 料金が発生するおそれがあります
  • 指を負傷するおそれがあります
  • 怪我をするおそれがあります
  • 失明するおそれがあります
  • 感電のおそれがあります
  • ウイルス感染するおそれがあります
  • 故障するおそれがあります
  • 床に傷が付くおそれがあります
  • 変形するおそれがあります
その他にも、挙げればきりがないほど、いつの間にか、日本はおそれ多い世の中になってしまいました。
 
おそれ があります」って、便利な表現でいろいろな場面で使用されていますが、いまひとつ、その深刻さがわからないと思いませんか?
 
ある事象が発生する可能性を(X)とします。
X=100%の場合、
「○○○しますので○○○ください。」
と言い切っても大丈夫です。
 
可能性が、0%<X≦100%の場合、つまり、絶対に起きないことはなく、絶対おきるともいいがたい時。
ネガティブな事象は
「○○○する おそれ がありますので○○○ください。」
と表現します。
 
また、
「○○○する 可能性 がありますので○○○ください。」
「○○○する 場合   がありますので○○○ください。」
「○○○する こと    がありますので○○○ください。」
と言うこともできます。
これらはポジティブ、ネガティブな事象のどちらにも使用できます。
 
ただ、
ポジティブな内容に おそれ を使用してしまうと、違和感が出てしまいます。
「年末ジャンボ1等に当選した おそれ がありますのでご確認ください。」
と言う人はいませんよね。
 
ある事象が発生する可能性が少しでもあり、その事象がネガティブな場合に、
「○○○する おそれ があります。」を使用し、この おそれ には、ちゃんと対応しないと危ないよというメッセージが込められています。
 
よくあるメーカーからの案内文書の例
ノートパソコン用バッテリパックの交換・回収について      
バッテリパックが発火する おそれ があるので、製品番号を至急ご確認ください。
 
メーカー側は、いちおう警告と案内を出したので、あとは、よろしくね!ということみたいですが、これを読んだ心配性の人は、「こりゃーすぐに対応しないと」、と思うでしょうし、
楽観的な人は、「そんなに深刻なことではなさそうなので、当分たいじょうぶだろう」と思うかもしれません。
 
なかなか、回収結果がメーカーの要求通りにならないのは、もしかしたら、この おそれ に原因があるのではないかと勘繰ったりもします。
 
その一方で、英語は、
「 おそれ があります」って、言っておけば、どうにかなってしまう日本語と違い、助動詞に可能性のレベルが細かく定義されているのには驚きです。
 
可能性を表す助動詞(可能性が高い順)
1. must 「~に違いない」 (98-100%)
2. will 「~だろう」 (95-100%)
3. would 「~かもしれない」 (90-95%)
4. should/ought to 「たぶん~だ」 (70-90%)
5. can 「~でありうる」 (50-70%)
6. may 「たぶん~だろう」 (30-50%)
7. might 「ひょっとして~かもしれない」 (25-50%)
8. could 「ひょっとして~かもしれない」 (20-40%)
 
バッテリパックが発火する おそれ があるので、製品番号を至急ご確認ください。
これを英語にすると、
Battery pack will lead to fire. Confirm the product number immediately.
Battery pack can lead to fire. Confirm the product number immediately.
Battery pack may lead to fire. Confirm the product number immediately.
Battery pack could lead to fire. Confirm the product number immediately.
のように使い分けることができ、読み手も、事象の深刻度を理解できます。
 
しかし、残念なことに、この英文を日本語にすると、ほとんどの訳は、
「バッテリパックが発火するおそれがあります。製品番号を至急ご確認ください。」
になって、結局、おそれ多い世の中になってしまうのです。
 
逆に、日本語で書かれた、おそれの本当の発生の可能性が何パーセントかわからないので、翻訳者により、will, can, may, couldなどが適当に選ばれて、複数訳文ができてしまうという問題もあります。
 
文化、言語表現の壁を、乗り越えるって本当に難しいということを再認識しました。
 
おそれがあります。恐るべしです。
 
T.K.