特許調査に関する書籍やセミナー、特許検索競技大会など、特許調査の方法を学ぶ手段は様々ありますが、他のサーチャーと話をしていると、「説明されていることは分かるが実際の調査と結びつかないので、いつも悩む」といった話を聞くことがあります。

今回は、セミナーなどで学ぶことができる部分と実務との隙間で、特許調査する際に自分が気をつけているポイントについて、自身の考え方の整理も兼ねつつお伝えしていきたいと思います特許調査のアプローチは様々であり考え方も色々ありますので、あくまでも1人のサーチャーの考え方としてお読みいただければ幸いです

私が解説します

S.M. | 特許調査 サーチャー
16年目の新人サーチャー。手がけた調査は1,000件以上になります。特許調査の頂きを目指して、日々奮闘中です。社内サーチャーとしてお客様先に出向していた際の経験を生かして、調査の背景や目的、調査結果の利用シーンをお客様の目線でも意識しながら、ご要望に沿った調査を行えるよう心がけています。【資格】・特許検索競技大会:ゴールド(化学・医薬)、シルバーまたはブロンズ(機械、電気)認定、・知的財産管理技能検定:3級

私が気をつけている5つのポイント

1. 技術理解

特許調査の際に気をつけていること1つめは、技術理解です。

技術理解の度合いが調査の大部分を占めていると考えています。正しく理解できていないと、調査内容の検討が正しくできず、検索式も不十分なものとなりますが、何よりもまず、公報の査読を正しく行うことができないからです。適切な特許調査を行うには、技術を正しく理解して、従来技術の範囲、今回の技術の核となる部分を明確にすることを最も大事なポイントとして気をつけています。特許調査では専門分野以外の調査を担当することもありますので、様々な技術を理解する土台となる技術系の基礎知識や一般的な勘どころを日常から養うということも大事なポイントです。

また、対象技術が請求項の形式で記載されている場合は、実施態様にのみとらわれることなく、請求項により表現される範囲をしっかりと検討しないと調査範囲が不十分となることがあります。(例:実際の図以外に図面中の方向を取ることができないか。従属項の内容から、引用元の請求項においてはAがBでない態様が含まれる。これらは実施例に引きずられると意外と見落としがちです。恥ずかしながら、たまに見落としてしまい調査をやり直しなどということも・・・)。

調査対象が請求項形式の場合であれば、技術理解力に加えて、請求項の正しい読み方についても十分理解することが必要になります。

納期や費用など工数が限定される事項はありますが、対象技術に関する下調べや検討は可能な限り行い理解を深めるように留意しています。

調査をご依頼いただく際は、可能な限り資料をご準備いただけると、依頼時のやりとりや技術理解の認識のすりあわせがスムーズにいきます。準備資料については、下記の記事で解説しております。

2. 調査内容の検討・設計

特許調査の際に気をつけていること2つめは、調査内容の検討・設計です。

対象技術と調査の種類やお客様のご要望といった情報をもとに、調査内容や調査対象とするべき範囲の検討を行います。

「Aという技術において、BとCを備えるもの。本構成によりDという効果が得られる」とした場合に、無効資料調査であれば、例えば、新規性に関して「A×B×Cの範囲」とするだけでなく、進歩性を考慮して「A×BとA×Cとの範囲」とする、BとCの検索漏れを考慮してさらに「A×(BやCの範囲に即して必要に応じて絞り込み)×Dの範囲」を加えるといったことが考えられます。また、Dという効果を得るためのBやCの構成が、Aの上位概念AAにおいても採用することができるものであれば、「AA×(B+C)の範囲」を加えるといったことも考えられます。

クリアランス調査の場合は 、「A×(B+C)の範囲」が考えられますが、侵害の可能性のある特許を幅広く抽出したいということであれば「Aの範囲」とするといったことも考えられます。パテントマップ分析で査読の余裕がないといった状況であれば、多少の漏れを許容しつつ、適合率の高いキーワードや分類のみを使用して「A×B×Cの適合率を上げた範囲」とするという対応が考えられます。

ヒアリングを行う際は、事前情報をもとに行った調査内容の検討・設計内容についてお話をして、調査内容について可能な限り事前にイメージしていだたけるように心がけています。ヒアリング内容をもとに、実際のヒット件数を考慮しつつ、ご予算、納期の範囲内で現実的な設計に落とし込んでいくことになりますが、対象技術だけでなく、調査の種類やお客様のご要望といった情報を加味しながら、お客様にとって納得感のある調査設計を行うことも大事なポイントとして気をつけています

調査内容を検討する際は、調査の仕様に関する情報も重要な検討要素となります。具体的にどのような情報をお伝えいただけるとご依頼時のやりとりがスムーズにいくかについては、同じく下記の記事で解説しております。

3. 検索式の作成

特許調査の際に気をつけていること3つめは、検索式の作成です。

対象技術の構成要件をA、B、C・・・とした場合に、それぞれに関連する特許分類やキーワードを収集して、調査設計に合わせて検索式の作成を行います。技術理解と調査内容の検討・設計が十分にできていれば、特許調査で一般的なセオリーとされる手法、例えば他観点調査や、必要に応じてキーワードと特許分類を併用するといった手法に沿って行うだけになります。

細かいポイントになりますが、対象技術の内容に合わせて、「キーワードで表現しにくい構成要件は母集団を限定する要素として使用しない」ということや、構成要件と対象技術との関係性によって、「キーワード検索の範囲を全文とするか」、「タイトル~要約、請求項の範囲とするか」といったことも適合率と再現率を考慮しながら検討します。特許分類と構成要件との関係をイメージしにくいということをたまに聞きますが、これについては、予備検索等で把握した関連特許に付与される特許分類の付与状況を参考にしながら、数をこなして経験を積んで感覚をつかむしかないと思います

4. 公報の査読

特許調査の際に気をつけていること4つめは、公報の査読です。

公報を順に査読していけば良いのですが、調査設計をもとに明らかにノイズとなる公報と査読する必要のある公報の違いについて十分に検討を行い明確にして、無駄なく査読を進めることをポイントとして意識しています

ただし、事前に検討した以外にも査読すべき公報が出てくることがありますので、ノイズについても査読の必要となる可能性を意識に置きつつ査読していきます。査読の必要性については、事前の検討にとらわれず、査読の際の公報のレベル感に応じて適宜変更していきます。このあたりは、例えば関連公報が多い場合と少ない場合のレベルの設定の仕方、ありふれた従来技術レベルと報告すべきレベルの設定の仕方等、調査経験を積み対象技術の理解を深めることで、徐々に事前精度が上がっていくところかと思います。

5. 報告書の作成、調査結果のまとめ

特許調査の際に気をつけていること5つめは、報告書の作成と調査結果のまとめです。

調査から得られる結論がまず分かるように記載することを、気をつけています。このあたりはビジネス文書の作成で一般的に言われていることですね。特許調査、特に特許性に関わる部分は複数の条件が関係しており、「Aとした場合、Bということができ、これはCという条件を満たすと考えられ、Dといえる」といった内容で、さらにA、B、C、Dの各項目が長いといったことがあり長くわかりにくい文になりがちです。そのため、一文をシンプルにして、なるべく読みやすい文章とすることを意識しています

まとめ

技術理解と調査内容の検討・設計に重きをおいたこともあり、その他については幾分簡便になりましたが、調査する際に自分が気をつけているポイントをまとめてみました。このブログをお読みになり、ご興味をお持ちでしたら特許調査のお問い合わせをいただければ幸いです。